石畳の彼方の時計塔へ ―20
少しして確認に来た男が窓を発見し、そのそばにボールが置いてあるのを見ると、そのまま戻っていった。裁判官が、
「何事かね」
と尋ね、
「子供のボールが入って窓が割れたようです」
と答えている。ソメリアは少し口元を緩ませて、それから再開された裁判に耳を傾けた。
「貿易都市の市場、及び数々の市民の持ち物を盗難したのはお前なんだな?」
裁判官が有無を言わせない口調で問う。
それに対してラヴィルが「はい」と真面目なのか適当なのかわからない声で答えている。
「そしてお前はポリスが貼ったお前の手配書を破りとって行った。異議は?」
「ありません」
「破りとった手配書を出せ」
「ここにあります」
ラヴィルがポケットからたくさんの紙を出すのが見えた。
左側の男がラヴィルが出した手配書を乱暴に取り上げる。
「手配書を回収していったということは、お前は自首する気はなく、それどころか逃げようとしていたということだな。異議は?」
「いえ、回収したのは私に罪の意識があったからです。回収した後、自首しようと思っていました」
裁判官が怒った声を出した。
「自首すれば、その後ポリスが手配書を回収する! お前にその必要はないだろう!」
ソメリアは思わずびくっとする。裁判官が続ける。
「もうよい! お前は――」
ソメリアは勢いよく飛び出していた。何もできないかもしれないけど、何もしなかった人にはなりたくなかった。男二人と裁判官、そしてラヴィルも驚いた顔をしている。ソメリアは壇と椅子の間を駆け抜けて、ラヴィルの方へ向かった。男二人が長い棒をソメリアに向けて一歩前に出る。一瞬ひるんだ隙に足元を掬われそうになる。そのとき――男二人の肩の奥で、ラヴィルが笑った気がした。
さっと左側の男から手配書の束を奪い、ラヴィルがそれを撒いた。ひらひらと舞いながら目前に落ちてくる紙に男たちが驚く。ソメリアはその隙をついて右側の男を蹴った。紙が落ちきらないうちに、ラヴィルの手にはいつの間にか拳銃が握られていた。
「物体出現のマジックの基本は出てくる瞬間が見えないことだ」
低い声が聞こえる。男たちはラヴィルの言葉を呑み込む余裕なんかない。足元ぎりぎりのところを狙ってラヴィルが銃を撃っていて、二人はだんだん距離を縮め、どんと肩をぶつけた。
「二つ目」
ラヴィルはそうつぶやくといつから持っていたのかロープで左の男の右足と右の男の左足を結ぶ。一瞬だった。男二人は別行動を取れなくなる。結び目を解こうとしたがうまくいかないようだった。
――当然だ。彼らには焦りがあるけど、ラヴィルにはない。
「テレポートもしよう」
ラヴィルがそう言った瞬間カーテンが翻ったかと思うと、ラヴィルはもうソメリアの隣にいた。
「ありがとう」
そう耳に囁かれる。
「さぁ、逃げよう」
その横顔は楽しんでいるかのような笑顔。
「後ろから裁判官が走ってきてる、一応気をつけて」
そう言われて初めてそんな人もいたなと思う。今までぼうっと見ていたのだろう。
けれど、もう慌てても遅い。
「三つめは炎のマジック」
そう言うが早いか否か、ラヴィルの手の中に炎が現れていた。ラヴィルが手を一振りすると、火は彼の上着に移っている。タイミングをはかったかのように――いやラヴィルに操られたカーテンががまた大きく翻って、次の瞬間、ラヴィルは上着を手に持っていた。
「放火犯ではないよね」
そう言って笑ってソメリアに余裕まで見せる。上着からは黒い煙がもくもくとあがっていた。



